3日坊主
私は思う。
毎日のように日記に書くことがあるのか。
あるだろう。何か絞り出せば。しかし、そんなものは絞りカスで、絞られた現実はどんなに惨めなものかがわかる。
では、夢を絞るとどうなるだろう。
こうありたい、こうなりたいという夢、いや、願望か。
こうあって欲しいという望みを突き詰め、それを文章に綴ることで、切り開ける道があるのではないだろうか。
それは、そんなことを考えた愚かな夢追い人の話だ。
ーーー
台風21号は、九州を大きく外れて、中国・四国地方を横断していた。
東京は雨こそ降らないが、強い風が吹き荒れており、一部では樹木が根元から吹き飛ばされている光景などもテレビのニュースで映し出されていた。
台風がくると、誰しもが少しワクワクすると思う。
小学校の時、台風のために休校になる時があり、ニュースで台風情報を見れば嬉しくなったものだ。
私の地元は、強い勢力のまま台風が直撃してくる地域だったため毎年台風の季節には、休校のお知らせが電話の連絡網を通して回ってきたものだった。
本来であれば学校にいる時間に家にいる。
雨戸を締め切り、薄暗い室内で昼間でも明かりを点けている非日常。
けれども、想像したよりは家の中に閉じこもっていることはさほど楽しいものではなく、嬉しさは次第に薄れていくのであった。
あの日も、台風の接近に伴い授業は昼で終了、部活も中止。教師たちは急かすように生徒を家路へと向かわせた。
高校2年生の私は自転車で強い風雨の中を、青い雨合羽を着て家路を急いだ。
「まあああてえええよおお!」
後ろから緑の雨合羽の大きな男が、深緑のママチャリをセカセカと漕ぎながら近付いてくる。
同級生のタカアキだった。
ブレーキをかけると、濡れたタイヤはきぃぃと音を立てた。
私は自転車を止めタカアキを待った。
タカアキはそのまま私の横を素通りし、勝ち誇った顔で振り返っている。
私も、待てと叫びながらタカアキの後ろを追った。
ひどい雨だった。
雨合羽を着ていることに意味はなく、隙間を探して着たかのように水は入り込み、制服は濡れていた。
近くの公園には誰もいなかった。
こんな悪天候の中、わざわざ公園で遊ぶ人もいないだろう。
私とタカアキは自転車から降りて、雨で水かさの増している池のほとりにある屋根のついたベンチに腰掛けた。
「お前あの噂知ってるか?」
雨合羽を脱ぎながら、タカアキに問いかける。
「地球に隕石が落ちて、人類は滅ぶんだってよ」
「まじか」
その時、大きな地響きと共に地面は割れ、大きな溝に私とタカアキは吸い込まれた。
ーーー
目が覚めた時、午前7時を回っていた。
仕事に行く時間だ。
ここは東京、台風21号は九州を大きく外れて、中国・四国地方を横断していた。
雨こそ降っていないが、強い風の影響で、電車のダイヤが大きく乱れていると、ニュースでは駅前で立ち往生するサラリーマンを映し出していた。
台風が来ると、誰しもがワクワクしてしまうのではないだろうか。
小学校のころは、台風のために休校になることを心底喜んだものだ。
ニュースの台風情報にかぶりつき、明日来るかな、と何度も親に聞いてうるさいと怒鳴られたものだ。
翌朝、休校の知らせを聞いて学校が休みになると、大いに喜んだものだ。
本来であれば学校に通っている時間に家にいる。
締め切った雨戸、薄暗い部屋で好きなことができる。
しかし、昼過ぎになれば退屈し有り余った元気のために寝ることもできず、結局することもなくただダラダラとゲームをしたりしたものだ。
あの日も、台風接近に伴い授業は昼で終了。教師たちは早く帰れと、学校から生徒を追い出すと門を締め切った。
私とタカアキは雨合羽を着込み、公園の池がどれだけ増水しているか見に行こうと言った。
強い雨合羽を容易くかいくぐり、私の体を濡らした。
タカアキは何も言うことなく、急にペダルをこぐスピードを上げた。
あっという間に10メートルほど突き放された私を、勝ち誇った顔で振り返る。
「まああああてえええええ!」
私は叫びながら、緑色の雨合羽を着た大男の背中を追いかけた。
公園には誰もいなかった。
それもそうだ。こんな暴風雨の中を公園で過ごす物好きはそうそういない。
私は池のほとりにある屋根付きのベンチに腰かけ、タカアキは雨合羽を脱ぎ始めた。
「なあ、知ってるか?」
私はタカアキに問いかけた。
「隕石が落ちてきて、地球もろとも人類は滅ぶんだってよ」
「うそやん」
その時、激しい爆発音と共に地面が割れ、私とタカアキは地の底深くまで落ちて行った。
ーーー
目覚めると、私は時計を見る。
午前7時、仕事に行くにはそろそろ起きなければならない時間だ。
台風21号は、九州を大きく外れて、中国・四国地方を横断していた。