未来電車
今日も今日とて、サラリーマンは電車に乗っている。
誰も言葉を発しない駅のプラットホームでは、示し合わせたようにスマートフォンに視線を向けている。
ここには誰もいないのと同じだ。そう思う私も、意味のないネット記事をただひたすら流し読むのだった。
私も、ここにいないのと同じだ。
ホームに電車が停車する。それを知らせる短いメロディが流れる。
ふと顔を上げたとき、ある異変に気付いた。
電車には乗客が1人もいないのだ。この時間帯はいつも満員のはずだ。
驚いて、あたりを見渡してまた異変に気づく。
誰もいない。
私以外、プラットホームに誰もいなくなってしまったのだ。
状況を理解できないまま、ただ呆然と立ちすくむ。
「ここは、未来へ連れてってくれる、未来電車の駅」
突然、私の後ろから声がした。
ギョッとして振り返ると、青い半袖のシャツに、ねずみ色の半ズボン姿の男がいた。
「通称、フューチャーステーション」
私の反応に構わず、男は話を続けていた。
「あなたが行きたい未来は、どんな未来ですか?」
手を後ろで組んで、私に近付いてくる。
「10年後、20年後、あなたは未来で、何をしているでしょう?」
彼の目線は私よりも少し後ろを見つめながら、ゆっくりとした足取りで、しかし確実に、距離を詰めてきている。
直毛でツンツンした髪型に、私と同じくらいの背格好。170センチほどだろうか。
男は私の横を通り過ぎ、電車の扉の前で歩みを止めた。
そして彼は振り返り、私と向かい合わせに立つと、言った。
「さあ、そろそろ電車が出ますよ。」
乗れ、と言っているのか?
「8時47分発、救いの急行本八幡」
発車を告げるベルが鳴り響いた。
謎の男を乗せて電車は動き出す。
彼は一体何者だったのだろう。
いつのまにか、私の後ろには電車を待つ人の列ができていた。
周りにも先ほどと同じ様に、人だかりができている。
あれはなんだったんだ。
考えるよりも先に、電車が到着した。
そして、私にリリックが降りてきた。
「ぼくの地元 西東京橋本
離れた親元 見送る友
もともと自分で決めたこと
意味はなくとも韻を踏む今日も
今まで重ね続けた虚栄心
朝から電車の中は超満員
揺れ動く人の波に平常心
保つのはもう疲れた金曜日
癒し求めて彷徨う大通り
お気に入りのラーメン屋定休日
君と出会えて良かった
心の底からそう思った
もう無理だって悟った
ぼくを乗せて運んでくれた
急行本八幡」
そう、リリックは突然に降りてくる。
次はあなたの元にも。