お弁当箱戦争
白い大地を侵すことはできない。
その領土は神聖である。
我々は常々、白の領土を目指し幾重にも戦略を練り、2018年、平成最後の時を迎えようとしていた。
これは、ご飯とおかずの、終わりなき戦いのプロローグである。
白、緑、黄、赤、茶、橙、さまざまな色が彩りを添え、お弁当箱の中身は華やかに、そして美しく、その領土争いを繰り広げている。
白の聖域、白の大国とも呼ばれる、白米の領土は、お弁当箱の発明当初から揺るぎない地位を占めている。
お弁当箱の半分を常に自陣とする白米を、その他のおかずたちはどれだけ自分たちを食べることで減らすことができるのか、日々、美味しく戦っている。
中でも、白米のすぐあとに建国されたとされる卵焼きの歴史は古い。
白米とは旧知の中で、数少ない友好国でも知られる。
卵焼きの歴史の長さは、その多様性にも影響を与えており、今や様々な卵焼き種がひしめき合っている。
もともと白米と友好関係にあるのもそうだが、おかずの領域を6分の1ほど占め、白米の消費率は30%という驚異の数字を誇る。
これだけ勢力を保ち続けている理由の一つに、その味の多様性は大きく貢献している。
元来、卵焼きは溶いた卵と塩のみで焼いたものを指していたが、その味の寛容性から醤油や砂糖、ネギ、ほうれん草、明太子、チーズなど、様々な強力な戦力を抱き込み、今に至るまでお弁当箱の国力を増強させ続けている。
卵焼きと並び、お弁当箱の中の7分の2を占める強大な国家がある。
唐揚げだ。
その野蛮な国民性は、他のおかず国家を徹底的に侵略し、そして、滅ぼした。
かつて、塩っけものとしてお弁当箱の8分の1を占めていた鮭の塩焼きも、その被害者である。
鮭の塩焼きは20年前まで、卵焼きと並ぶ2大勢力としてその国力を競い合っていたが、唐揚げ軍の台頭により味もの系の座を引きずり降ろされることとなる。
事の起こりは1998年、日清レンジで簡単唐揚げの登場だ。
今まで油の処理を理由に朝の調理を避けられ、夜ご飯の定番として君臨していた唐揚げは「夜王(やおう)」と呼ばれ、お弁当箱戦争には関わることはなかった。
しかし、電子レンジで簡単に調理できるようになり、お弁当にいれると絶大な人気が出始めた。
元々「夜王」としての地位とノウハウを持っていた唐揚げは、お弁当箱戦争を激化させた。
その矢面に立たされたのが、鮭の塩焼きだったのだ。
今では鮭フレークとなり、白の大陸に点在する移民国家と成り果てかつての面影は消え失せたが、鮭自体はまだお弁当箱の中でレジスタンスとしてくすぶっている。
しかし、唐揚げ軍も白の国に対してはその力を完全には出しきれずにいた。
「夜王」時代の戦略と大きく異なるのは、「おかわり制度」の有無だ。
おかわり制度ととは、夜ご飯世界ならではの制度であり、お弁当世界には無い。
おかわりを前提とした唐揚げ軍の戦略だと、お弁当世界では逆に白米をそれほど消費せず、唐揚げ単体のうまさを優先することが増えてしまったのだ。
鮭の塩焼き国家を滅亡させ、卵焼きと並ぶ2大勢力と呼ばれながらも、未だ白米消費率28%と攻略に手こずっているのは、強さゆえの旨さにあるといえる。
ここまで、おかずの大陸の国々について説明していたが、その昔、白米の大陸にありながら、おかずとして成り立っている国家もあった。
聖域の真ん中にあるその国は、「紅蓮の王国」と呼ばれた。
周りを白の国に囲まれながら、不可侵の条約を結びし、不落の王国。
梅だ。
つづく