GUZEN TO UN MAY.
人生とは偶然の重なりなのか、はたまた全て運命によりあらかじめ決まっているものなのか。
たまに正夢を見ることがある。
デジャヴとも言うか。
ある光景を見ることが初めてではないような気がするという、不思議な体験だ。
そんな時、私はよく抵抗する。
例えば、記憶の中ではこの後右へ進んでいたとすると、寝転がってみたり。
しかし、そんな抵抗もそう決められていた運命だったのかもしれない。
見ず知らずの女の子に家まで送ってもらった翌朝、私はLINEでお礼を言った。
家の前で別れる際に、今度お礼をさせて欲しいと下心丸出しでの頼みに、彼女は快く(記憶はない)連絡先を教えてくれた。
その時のやり取りは、正直「脈ナシ」だった。
「また会えたらご飯にでも行きましょう(もう会うこともないだろうがね)」
まあそうだろう。と、私は思った。
彼女にとっての私の第一印象は、控えめに言って呑んだくれたゴミクズ以下だ。
深追いはするまい。私は昨夜の出来事を脳の忘れるボックスへと転送した。
その夜、懲りない私は居酒屋にいた。
その居酒屋に行くために家を出る前まで、二日酔いにうなされていた。
だが私にとってこんなものは屁なのだ。
一度、蕁麻疹が出るほど酒を飲み、病院で点滴を打ったことがあった。
カーテンで仕切られたベッドの上、ひとり寂しく点滴の管を眺めていると、本当に心細く悲しい思いをしたものだ。
しかしその夜、古くからの友人から飲みに誘われ、私は夜の渋谷へ消えた。
風が吹けば飛ばされるほど、私の危機感や我慢強さは紙ペラだった。
その居酒屋でもそれなりにお酒を飲んでいた私は、トイレに席を立った。
自分のお酒のキャパを見る時、いくつか指標となる項目があるだろう。
古傷に赤みが出る、とか、ジョッキを持つ時握るのではなくパーにした指にぶら下げて飲むようになるなど。
その一つに、小便をするときに独り言を呟く、がある。
例に漏れず「あー、やばい」など呟いていた。
席に戻るとき、廊下に男女が立っていた。
女の人の顔をチラリと横目に通り過ぎようとした時、ふと記憶が蘇るような感覚に陥った。
忘れるボックスへと転送したはずのあの記憶。
私の視線は再び女の人に。
彼女も私を見ていた。
あの人だ。
「あー!」と「えー!」だった。
私が「あー!」だ。
その時私は、あんなに酔っ払っといてまた飲んでいることにすぐ負い目を感じて、立ち去ろうとした。
なんで逃げるの、とか言って彼女は引き止める。
正直よく覚えていない。また会ったね、とか、また飲んでるの、とか、そういう会話を2、3して、その場を離れた。
居酒屋を出た時、私は彼女にLINEを送った。
その夜、返事は返ってこなかった。