【公式】たくらふのブログ

嘘でも本当でもない夢現な日常ブログ

季節外れの蚊

夏が終わり、秋風が吹く頃。

ひとりの老婆の右手の甲に、一匹の蚊が留まっておった。

こんな季節に珍しいもんだと、その老婆は思った。

これから冬が来れば、この蚊も長くは生きられまい。

そんなことを考えているうちに、小さな蚊はお腹を赤く膨れさせ、ふわりと飛び上がり、どこかへ行った。

手の甲は、赤く腫れていた。

痒いなあと、老婆はぽりぽりと掻いておった。

すると、今度は耳元で蚊の羽音が聞こえる。

先ほどの蚊だろうか。

そんなことを考えているうちに、羽音はかき消えた。

手の甲は爪の跡が赤くなっていた。

首元がむず痒くなってきた。

きっと蚊に刺されたに違いない。

あぁ、痒い。手の甲も、首元も痒い。

あの蚊のせいで、ああ、痒い。

気になってしょうがない。痒みが気になる。

左の二の腕も痒い。

あ。

いつのまにか、左の二の腕まで痒い。

なんだ、まったく。

あの蚊め、殺してやろうか。

すこし乱暴かしら。

 

老婆はふと前を向く。

街は砂漠となり、目に映るものは全て鯖となっいた。

空は灰色で、厚い雲が覆いかぶさっている。

この街にはもう誰もいないだろう。

 

蚊の羽音はそのあとすこしも聞こえなかった。

 

 

この文章には何の意図も意味もない。

今日、老婆がものの5分で蚊に3ヶ所刺され、殺して!と小さく叫び、ちょっと凶暴だわね、と言った。

そういう日記なのだ。