【公式】たくらふのブログ

嘘でも本当でもない夢現な日常ブログ

焼肉マスター・拓

焼肉。

人々の食欲をくすぐる香り。肉が奏でるジューシーな音。

とある焼肉屋に立ち上る煙の中、真剣な目つきで肉を焼く一人の男がいた。

彼の名前はマスター・拓(27歳)

知る人ぞ知る、焼肉界のレジェンド。

人は彼を、【焼肉マスター】と呼ぶ。

♪〜

拓「肉を焼いてるんじゃあないんだよ。肉の人生を仕上げてる。そういうことかもねぇ。」

いったい彼にはどんな世界が見えているのか。

 

♩〜ぼくらは位置について 横一列でスタートをきった

 

今日のプロフェッショナルは、焼肉に人生をかけた男。

焼肉マスター・拓のその生い立ちと素顔に迫る。

 

 

ここは焼肉チェーン店牛角

店の片隅に鎮座するひとりの男。

彼こそが焼肉マスター・拓、27歳だ。

拓「ちょっと先に、仕上げ始めてますよ」

スタッフ「仕上げ?」

拓「あ、普通の人は【焼く】っていうよねぇ」

そう言って少し笑った目は、少しも我々を見ていなかった。

真剣な眼差しの先には、網の上で焼かれる肉がある。

スタッフ「仕上げるというのは?」

拓「私はね、肉にも人生があって、それでここに立っていると思っているんです。」

拓「人生、って、まあ、大げさかもしれないですが」

拓「肉もね、色々あってここで自分らの出番を待ってると思うんですわ」

マスターはそう言うと、タン塩を口へ運び、満足げな顔をする。

拓「ひゃあうまー」

取材班が見た、初めての笑顔だった。

 

スタッフ「強いこだわりに、焼肉好きがカリスマとして崇めていると伺っていますが」

拓「ははは、そうみたいね。焼肉なんて好きに食べたらいいのにね。」

スタッフ「今のタン塩にもこだわりが?」

拓「うーん、そうね。ステージの脇に収めて観客に騒がせるっていう。割とスタンダードかな。」

ステージ?

観客?

彼の口からはおよそ肉を焼いているとは思えない言葉が出てくる。

戸惑うスタッフを横に、マスターは続ける。

拓「タン塩はまだかけだしの役者みたいなもんだから。」

拓「だからフレッシュなレモンもすんなり(合う)」

拓「だけど、観客に慣れさせちゃあ、すぐ緊張しちゃうからさ、そこの加減は難しいかも」

スタッフ「観客というのは?」

拓「ん、ごめんごめん、火のことよ。炎のことです、すんません(笑)」

彼の言葉一つ一つに、強いこだわりを感じずにはいられなかった。

ピートロを焼きながら、拓は、その世界観について語ってくれた。

拓「網の上ってのはさ、ステージ、なわけよ」

拓「その上で焼かれる肉は、炎という観客の前でこれまでの人生を演じるわけさ」

拓「涙みたいにして、静かに油を落とすやつとか」

拓「中には燃え上がるほど観客を熱狂させる奴もいたりして」

拓「そういう風に思ってから、(焼肉に)ハマっちゃったんよね」

彼の目には、網の上はまるでミュージカルのように見えているのだろうか。

網の上を見つめる瞳には、いったいどんな世界が広がっているのか。

我々には、想像もつかない次元で、彼は肉を焼いているのだろう。

 

スタッフ「ピートロ好きなんですか?」

拓「好きだよおー」

拓「ピートロは正直。食べ頃を自分で一番よく分かってる子だよ」

スタッフ「コツを教えてもらえませんか?」

拓「コツ?そおんなのないよ(笑)」

拓「見てればわかるわかる。わかるって。」

拓は話しながら、じっとピートロから目を離さない。

その時だった。

拓「ほら今!見た?!」

拓「ほらあー、見ないと」

拓は残念そうにピートロを口に運ぶ。

またしても笑顔が溢れる。

拓「今、ピートロが叫んだでしょ?それが小さいけど、ピーの頂点。絶頂なんよ」

ピートロが叫ぶとは。

ピートロにどのような変化があったのか。

スタッフの誰一人、その変化を確認できなかった。

この些細な変化を見逃さない眼差しこそが、彼を焼肉マスターたらしめているのだろうか。

 

拓はホルモンを焼き始める。

スタッフ「ホルモンっていつ食べたらいいかわかりにくいですよね」

拓「難しいと思うよ。半端に仕上げてると痛い目見るからさあ。」

拓「ホルモンはワガママな女優みたいなもん。」

拓「ステージの真ん中でお客さん熱狂させて、あとは隅っこで落ち着かせとく。」

網の中心でホルモンが勢いよく焼かれている。

炎が立ち上っていた、その時、拓の目が厳しく光るのをスタッフは見逃さなかった。

拓「こらおい!ステージに登るな!」

散見される拓の強いこだわりのルーツとは。

取材班はその生い立ちを聞いてみることにした。

 

拓「うちは貧しくてね。焼肉なんて年に1回行ったっけってくらいだったの」

拓「だからさ、葉っぱをお肉に見立てて、石の上で焼肉ごっこみたいな(笑)」

幼い頃から、焼肉の魅力にとりつかれていたようだ。

拓「そしたらさ、葉っぱが風に吹かれて踊るのよ」

拓「あぁ、葉っぱも踊るの!って、それで気付いちゃった」

♪〜

 

結局、彼の言っていることの10分の1も、我々取材班には伝わらなかった。

しかし、肉を焼く、その行為そのものに深い意味を見出しているということだけは、肌で感じることができた。

最後に拓はこんなことを語ってくれた。

拓「私には、もう焼肉しかない。けど、焼肉にはたくさんのファンがいる。」

拓「それだけでいい、もうね、満足。食べなくても。あははは(笑)」

 

♩〜ずっと探していた

 

今日もどこかで、彼は煙に包まれながら、笑顔で肉を食べているだろう。